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04.09
Wed
僧、玄翁が奥州から京へ上る途中、那須野の原を通りかかります。能力の叫び声に空を見上げると、鳥が大石の上に落ちていきます。
不審に思い石に近づいて見ようとすると、その石に近づいてはいけないと云いながら女が現れ、この石は殺生石といって、人はもちろん鳥類畜類も触れると命がないと近づいて来ます。玄翁は女に石の謂われをたずねます。
女は、この石は昔、鳥羽の院に仕えた玉藻の前の執心が、石になったのだといい委しく語ります。
「この玉藻の前は素性もわからず経歴も全く分からない人でしたが、大変美しく、仏教、儒教や文学、音楽に至まで広い知識を身につけていた。帝の寵愛は深かった。ある時、帝は管弦の御遊を催した。雲行きのあやしげな宵の頃、突然雨とともに風が吹き、御殿の灯火が消えてしまった。その時、玉藻の前の身体から光が放たれ、御殿を照らし出した。
その後帝は病気になった。安部泰成に占わせたところ、これは玉藻の前の仕業で、帝の命をとるために美女に化けてきたのだといい調伏の祈祷をするよう奏上した。
帝の心もすっかり変ってしまった。正体を見破られた玉藻の前はこの那須野に逃れてきたが、この原の露と消えてしまった」
あまりにも委しい話に玄翁が女の素性をたずねると、女は実は私はこの殺生石の石魂であると明かし、石の中に消えます。
玄翁は石に向かって供養をします。石は二つに割れ石魂の妖狐が姿を現します。妖狐は追討の武士に殺された凄まじいさまをみせ「帝の命を狙ったが、正体を見破られ、この那須野の原に逃れてきた。勅命を受けた三浦介、上総介に追われ、ついに射殺された。だが執心は殺生石となって人畜に害を与えたが、今ありがたい供養を受けたので以後は悪事は働かない」と約束して消え失せます。
 この能はキリ能または五番目物と呼ばれます。能会の最後に演ぜられるからです。
能は人間の根元的なものを主題にしたものが多く、観能のあとは多分に疲れ、肩が凝りますが、これら切能は活劇の要素が大きく、楽しめ、凝った肩もほぐれます。
切能の役目でもあります。主人公には鬼畜が多く、人に害をなし、一方的に調伏されても退治されても当然のキャラクターです。
 この能の始めに巨大な石が運び込まれます。
道成寺の鐘に次ぐ大きさで、この前に座って清涼殿での「事件」を語る女が次第に薄気味悪く見えてきます。その能の圧巻は後場で、この巨大な石が二つに割れ狐の化け物が姿を現すところでしょう。これも道成寺の鐘の落下に次ぐ迫力です。烈しいシテの型は体力の限界に近いほどです。
 玄翁は曹洞宗の高僧。鎌倉の海蔵寺の開山とも言われています。
玉藻の前を調伏した安部泰成は、安部清明世の孫、宮中お抱えの世襲の陰陽道、占師だそうです。安部氏、玉藻の前、と並ぶと、日本版魔女狩ではと、いろいろ想像されて面白い。         
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04.09
Wed
これは地獄の物語です。その凄惨な描写のなかに、今の世の人の悩み苦しみも見えるようです。
地獄は人が住むその天上、山、地下、海にあると考えられてきました。つまり程近くにあるというのです。富山の立山はその地獄でした。別けても地獄谷は火山ガスの噴出、熱湯湧出の池、血の池などまさに地獄です。
 
修行の僧が立山禅定を終え、地獄へ通ずるという分かれ道を見、慚愧懺悔心に下山します。
ただならぬ姿の老人が僧を呼び止めます。老人は去年秋死んだ亡者だという。地獄の地、立山の景色が広がります。陸奥、外の浜に行くならば妻子に蓑笠を手向けるように伝えてくれという。証にと片袖をちぎって渡し、泣きながら去っていきます。
僧は外の浜に妻子を訪ねます。謎めいた老人の伝言を伝え、片袖を渡します。妻は片袖のない形見の薄衣を出して袖を合わせます。袖は違わなかった。
妻は蓑笠を手向け法事をします。僧の読経に引かれ地獄の責め苦に憔悴した老人の幽霊が現れ、犯した罪の深さを嘆き仏の救済をもとめ、我が子の姿を見、駆け寄って撫でようとするが子はたちまち消えてしまいます。
老人の霊、即ち猟師の霊は生きるための生業、生きものを殺す猟師の家に生まれた身の不遇を嘆くが、やがて猟の興奮が甦ります。猟師が獲る「善知鳥」は子に餌を与えるとき「うとう」と呼ぶ。猟師の霊は「うとう」と鋭く叫び善知鳥を追う。罪も報いも忘れ果ててひたすら善知鳥を追う。二度は逃すが砂の上の巣を見つけ中の子を打ちすえる。この曲だけの「カケリ」です。子を捕られた親は上から血の涙を降します。涙は身を溶かすのです。猟師の霊は手向けの蓑笠を身につけ逃げまどいます。
 一転して此処は猟師が落ちた地獄です。生前に殺した善知鳥は鉄の嘴、銅の爪を持った化鳥となって猟師の目をえぐり肉を裂き攻め苛みます。凄惨な地獄のありさまを見せ「助けて賜べや御僧」と成仏できないまま悲痛な叫び声を残し再び地獄の底に消えます。
 貧しさ故に仏戒を犯さざるを得ない人、仏戒と知りながら猟の面白さに狂う人、信心に縛られた人を描いて秀逸。
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