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12.09
Mon

落葉(おちば)

カテゴリ:落葉
□回国修行の僧が都に上る途中、比叡山麓の小野の里を訪れます。
 ここは源氏物語のなかで浮舟が恋のもつれから投身し助けられ、
出家した故地であることを思いだし回向していると、里の女が呼びかけながら現れます。
女は、同じ物語の中で「落葉の宮の旧跡」もこの所にあると、その跡に案内します。
旧跡は落ち葉に埋もれ、跡形もなく時折鹿の鳴き声が寂しく聞こえます。
女はさらに不遇の皇子、惟喬親王の隠棲跡を教え、この里の名高い炭窯の煙を眺め、
我が胸を焦がして、くゆる煙のようだと呟き姿を消します。
小野の里人が僧に落葉の宮の身の上を詳しく語ります。
僧が落葉の宮の、この里でのことに思いをめぐらし回向していると、香の匂いもほのかに
衣ずれの音とともに落葉の宮がありし日の姿を現します。
宮はこの里でのことを回想し物語ります。
 落葉の宮の夫、柏木は妹宮、女三の宮を愛し落葉の宮との結婚を悔いていました。
「もろかずら、落ち葉を何に拾いけん、名は睦ましき、かざしなれども」
(葵祭りの鬘に飾る葵、桂のような仲の良い姉妹宮だが、どうして落ち葉のようなつまらない
女二の宮を妻にしたのだろう。)
この柏木の歌がもとで女二の宮は落葉の宮と呼ばれるようになりました。
その後、柏木は病を得、後を親友、夕霧に託して亡くなります。
残された落葉の宮は物の怪に悩む母の加持のためもあり小野の山荘にこもります。
 堅物と評判の夕霧でしたが何くれとなく援助しているうちに宮への恋慕を募らせていきます。
夕霧は秋色美しい小野の里を訪ね恋情を訴えます。
慎ましい女、落葉の宮は頑なに拒みます。折から霧が軒の下まで立ちこめ、風が静かに立ちわたり、
虫の音、妻を呼ぶ鹿の声が混じり合う「艶なるほど」の夜でした。
夕霧は宮の心が解けるのを待ち一夜を明かしますが望み叶わず明け方すごすごと山荘を後にします。
こう物語した宮は和歌を口ずさみ追憶の舞を静かに舞います。
夕霧の思い出はしだいに妄執となり、その身に降りかかりますが僧の回向を受け,落ち葉が
ほろほろはらはらと落ちるようにその身も消え失せます。
◆源氏物語に取材した作品は十曲余りあります。
物語のヒーロー、光源氏の青春時代と華やかな時代の若い巻からの取材が殆どです。
源氏物語にイメージする「幽艶」から遠い作品が多く主題の捉え方も各々個性的です。
中でもこの「落葉」は色々な意味で変わった曲です。
この「落葉」は源氏物語という長編のそれも巻末に近い、光源氏の晩年、次世代の物語です。
登場人物に馴染みの薄い、の感は否めません。
主に「柏木」、「夕霧」の巻からの取材で,シテは朱雀帝の皇女、落葉の宮(女二の宮)です。
この落葉の宮は、夫「柏木」が宮の妹宮を愛し宮との結婚を悔いていると言う背信にも
これを深く恨むこともない控えめな女性です。
「柏木」の巻ではいわゆる不倫の罪におののく柏木が描かれ「夕霧」の巻では
執拗なまでに落葉の宮に求愛する夕霧が描かれています。
こうした柏木、夕霧二人の陰にかくれ、ドラマになりにくい落葉の宮をシテに取り上げています。
◆能の中心をなすクセでは、シテにまつわる事柄が取り上げられるのが通例です。
この曲ではシテ落葉の宮のことは語られず夕霧の大将の落葉の宮への想いが主題となっています。
源氏物語の文言をちりばめた秋の夜の山荘の叙景が夕霧の大将の心情と交錯して語られます。
宮の心情描写のようにも錯覚される美しさです。
◆この山荘での出来事の後、落葉の宮は母が亡くなったのを機に
夕霧が修理して待つ一条宮に移されます。
ここでも夕霧は執拗に宮に迫りますが、宮は頑なに拒みつづけ、ついには塗籠にこもります。
頼べき人、柏木を亡くした宮の行く末を案じた侍女「小少将」は、夕霧を手引きして塗籠のなかに導き入れます。
夕霧は半ば強引に契りを結んでしまいます。
終には受け入れざるを得なかった宮の胸中をこの曲の後場で
「さやけき月に妄執の夕霧、身一つに降りかかり、目も紅の落葉の宮は、せんかた涙にむせびけり」と
謡われます。この曲の後場の主題です。
慎ましく控えめな日本の女性の内に秘めた強さが思われる曲です。
◆この曲は幽玄、幽艶一辺倒ではなく、後場にシテの錯乱の場面があり他の三番目物とひと味ちがいます。
名曲、野々宮、夕顔と同類の曲です。
クセの後を受けて舞う「序ノ舞」は最もテンポの緩い幽艶な舞です。
この曲は中庸の位の「中ノ舞」でもよいとされています。狂乱に似た場面があり、
幽玄、幽艶を重視するか、シテの錯乱、内面の描写を重視するかはシテに任されているということでしょう。
シテの錯乱の場面の直後に舞われる「破ノ舞」はシテの錯乱をあらわすテンポの速い舞です。
◆金剛流にだけ伝わるこの曲は上演も希でしたが、近年国立能楽堂、横浜能楽堂、朝日新聞が取り上げ話題を呼びました。
最近、金剛流の定期能などでも演ぜられ見直される機運がみえるようになりました。
見識に深謝を禁じえません。
◇落葉の宮の「落ち葉」は、劣った、不要、の意だそうです。
若い女性を落ち葉に例える、これほどの恥辱はありません。
おおかたの日本人は忍従の女性を尊敬します。”落ち葉”を弁護せざるを得ません。
代表的な落ち葉に、かえで、ゆずり葉、があります。
かえでなどの落葉樹は、赤や黄色に紅葉して秋の山をかざります。
古来、詩歌に歌われ親しまれてきました。
落葉樹は葉に蓄えた養分を幹に取り込み、また葉からの水分の蒸散を防ぐため自ら葉を落として
厳しい冬に備えます。謂わば忍従の木々です。
ゆずり葉は常緑樹で紅葉はしませいん。古い葉が若い葉に代を譲り散っていきます。
代を重ね末永く、の縁起物として正月の飾り物に使います。
◇この曲に登場する『源氏物語』の人々
須磨源氏、明石源氏というのがあるそうです。
源氏物語の須磨、明石の巻あたりまで読んで源氏を論ずる人、転じて知ったか振りをする人と云うのだそうです。
源氏物語は長編のうえに難解です。
四半分にも届かない須磨の巻までであっても読むには、かなりの時間と労力を要します。
まして若菜、柏木、夕霧の巻は巻末に近い光源氏の次世代の物語です。
馴染みの薄いのは仕方がありません。
◇『若菜(上)の巻』
病が重くなり出家を望む朱雀帝は皇女、女三の宮の行く末を慮り光源氏に降嫁させます。
光源氏の友人、頭の中将(致仕の大臣)の子息、柏木は六条院(源氏の邸宅)での蹴鞠の会で
女三の宮を垣間見て恋の虜になります。(能、遊行柳のクセでも謡われます)
◇『若菜(下)の巻』
柏木は女三の宮の姉宮、女二の宮を妻に迎えますが女三の宮を忘れることができません。
思いはつのるばかりでした。
柏木は源氏が紫の上の看病に没頭して女三の宮のもとに行けないことを知り、
宮の寝所に忍び込み、ついに契りを結んでしまいます。
柏木は罪におののきながらも歌を詠みます。
「もろかずら落葉をなにに拾いけん、名はむつましきかざしなれども」
(二人の宮のうちどうして劣った女二の宮を妻にしたのだろ)紫の上が小康を得たので源氏は久しぶりに女三の宮を訪れます。
源氏は思いもよらぬ宮の懐妊を知り不審しますが柏木の恋文を見つけ一切を悟ります。
柏木は罪の意識に懊悩し病の床につきます。
◇『柏木の巻』
女三の宮は男の子(薫)を出産します。
宮は源氏の胸中を思い、耐えられず出家します。
柏木の病状はますます重くなります。死期を悟った柏木は正妻、落葉の宮の行く末を案じ
見舞いに訪れた友人夕霧(源氏の子息)に、これまでの出来事を話し
源氏への取りなしと宮の後事を託し、その後まもなく亡くなります。
律儀な夕霧はしばしば落葉の宮を見舞います。いつしか夕霧の心は宮に傾き始めます。
◇『横笛の巻』
ある秋の夕暮れ、夕霧は落葉の宮、母娘を一条宮に見舞い宮の母、御息所と柏木を追憶します。
御息所は柏木の遺品、愛用の横笛を夕霧に贈ります。
夕霧の歌「横笛の調べは殊に変わらぬを、むなしくなりし音こそ尽きせね」
(かつて故人がふいた笛の音色は故人を悼んで泣く人々声とともに何時までも残るでしょう)
この曲の後場、序ノ舞のあとの、追憶の和歌として一部変えてうたわれます。
その後この笛を源氏が預かります。柏木と女三の宮との子、薫に伝える思惑からです。
◇『夕霧の巻』
夕霧は実直という定評の人です。この巻は実直な男の一途な恋の物語です。
この曲のクセはこの巻を脚色しています。
律儀な夕霧は柏木の遺言をまもり宮母娘を庇護しますが、恋心は抑えきれず募っていきます。
宮の母、御息所が憑きものの加持のため小野の山荘に移り、孝行の宮も後を追い
移り住みます。八月半ば頃(旧暦)夕霧は山荘をおとずれます。
折しも秋色美しく夜に入り霧が立ち込めますます。
夕霧の歌「山里のあわれを添ふる夕霧に、たち出でん空もなきここちして」
(山里の淋しい思いをさせる夕霧が立ち込めて帰る方向も分かりません。
ーおそばを離れられませんー)
この歌はクセの中でシテの上羽(クセの中心部で歌う和歌)でうたわれます。
夕霧は思いのたけの恋情を訴えますが宮は頑なに受け入れません。
明け方夕霧は露にそぼちつつ山荘を後にします。
夕霧が山荘に一夜を明かしたことを知った御息所は驚き、夕霧の本心を確かめようと
手紙を書きます。夕霧の正妻、雲居の雁に文を取り上げられ夕霧は返事が書けません。
御息所は失意のうちに病勢をつのらせ亡くなります。
その後落葉の宮は旧宅、一条宮に連れ戻されます。
宮は出家を望みますが父帝に止められます。夕霧は正妻、雲居雁を怒らせても一条宮に通い、
宮も周囲の状況から受け入れざるを得ませんでした。
まめ男、夕霧は幼馴染みの妻、雲居雁との間に七人、藤典侍(惟光の妹)に五人、
都合十二人の子沢山でした。
◇源氏の在世までの巻を正編とも云うようです。
源氏亡き後の続編とも云うべき「匂宮の巻」に夕霧は、六条の院(源氏の旧邸)に移した
落葉の宮と雲居雁のもとに一晩おきに十五日ずつきちんと通います。さすが律儀、まめ男です。
(梅)
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