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08.15
Wed
月や雨は風雅の代表的なものとして、詩歌に詠まれ歌に歌われてきました。
平安後期を代表する歌人、西行法師は和歌の守護神でもある住吉の明神に参詣のため住吉の浦に辿り着きます。
日が暮れたので辺りの家に宿を乞う。家には老夫婦がいました。
老翁はあまりにも見苦しい庵なのでと断ります。見苦しい理由はこうです。
老翁は軒を叩く雨の音が聞きたいから破れた軒を葺きたいといい、姥は破れた軒から漏れる月を見たいから葺かないと争い、
結局屋根は葺かず破れたまま。このような家にどうして泊めることが出来ようかというのです。
老翁はつくづくと軒を見上げ独り言に「賤が軒端を葺きぞわづらうと」と呟く。
老翁は独り言が歌の上の句になっていることに気が付き、西行に下の句を付ければ宿を貸そうといいます。
「月は漏れ、雨は溜まれと兎に角に」と西行。
家の有様を読んで完璧な一首が完成、三人唱和して吟じます「月は洩れ雨は溜まれと兎に角に、賤が軒端を葺きぞわずらう」
折しも中秋、月も美しく破れ軒から漏れて白楽天の詩の心が偲ばれ、軒端の松を吹く風の音は軒の板を打つ村雨のように聞こえます。
このような夜は砧を打つのが相応しいと老夫婦は砧を打つ歌を謡い、翁は立ち上がり舞います。
やがて夜も更け老夫婦は静かに寝所に入ります。

住吉明神の末社の神が現れ、老夫婦は住吉明神の化身であり、西行に和歌の極意を授けるため軒端の板を葺き葺かずなどを見せたのだと夢の中にある西行に告げます。

やがて荘重な囃に乗って、明神が乘り移った宮人が現れ西行が巧みに下の句を付けたことを喜び、厳粛に舞をまい神慮を見せます。

西行は自然派の大詩人。西行が目指した風雅な世界を、軒の葺き葺かず、砧の場を中心に描き出します。
住吉明神は和歌の守護神。西行は「我、宿願の子細あるにより」明神に参詣しました。
前場の老夫婦は身分を名乗らず、匂わさず中入りしますがアイ狂言の案内なしにもその風格からも明神の化身であることは察せられます。
前シテの老翁は面、小尉、着付は小格子で神の化身の出立であり、後場のシテは明神が憑いた宮人ですが、面は石王尉、白垂(白髪)、初冠の神の装いでです。観る側は神そのものと観るように思われます。

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08.15
Wed
琵琶の名手、藤原師長は琵琶の奥義を極め更に奥を極めようと入唐を志し、その名残にと月の名所、須磨を訪れる。
師長の前に塩汲みの老夫妻が現れ須磨の浦の美景を称賛し塩を汲み我が家に入る。
師長主従は老夫婦に宿を借りる。
従者は老夫婦に、師長は琵琶の名手で神泉苑の雨乞いに琵琶の秘曲を弾じ、竜神は師長の琵琶に感じ大雨を降らせた。これほどの程の琵琶の堪能であると老夫婦に語る。
老夫婦は琵琶をぜひ聞きたいと所望する。師長は源氏物語、須磨の巻の一節を謡い琵琶を弾ずる。折から村雨が降り板庇を叩き、師長は琵琶の弾く手を止める。
板庇を叩く雨音が琵琶の音程より高く演奏の妨げになったからだった。
老夫婦は菅や茅で編んだ苫を取り出し板庇を葺く。雨の音は琵琶の調子に戻った。
驚いた師長は琵琶に精通している人だと確信、老人の調べを聞きたいと琵琶を渡す。
老人の琵琶の調べに合わせて姥も琴を弾く。その調べに感涙もこぼれ、嬰児も踊り出す程の感動であった。
師長は更なる琵琶の奥義を極めんと入唐を志したが、我が日の本にもこのような堪能がいたのだと我が身の浅はかさを悟り入唐を断念、老夫婦の名を問う。
老夫婦は村上天皇と梨壺の女御夫妻であるとの乗り、師長の入唐を止めようと現れたのだと消えうせる。

師長の下人(又は竜神の眷属)が現れ前場のあらましや、絃上、青山、獅子丸、三面の名器の琵琶のいわれを語る。

ノリのよい囃に乗って村上の天皇がその優雅な姿を現わして名乗り、漫々たる海上に向かい、竜神に「獅子丸」を持参するよう命ずる。琵琶の名器「獅子丸」は大唐から伝えられた琵琶の名器だったが持ち帰る途中、龍神を鎮めるため海に沈めた琵琶だった。
急調の囃に乗って龍神が琵琶を携えて現れ、師長に渡し師長は獅子丸を弾ずる。
八大龍王も管弦の役を勤め波も鼓を打つ。
村上天皇は興に乗り典雅な舞を舞い、飛行の車に乗り八大龍馬に引かせ師長も馬上に琵琶を携え帰洛の途に就く。


師長が琵琶を弾じつつ謡う「恋詫びて泣く音にまごう浦波は思う方より風や吹くらん」は源氏物語「須磨の巻」の源氏の歌で、源氏がこの須磨の浦に配流され都の恋する人を偲んだ歌だという。琵琶歌に擬して独特の技法で謡い、老人夫婦が語る須磨の寂びた情景に琵琶歌の艶が溶け込んでいく。

後場は切り能としてのスピード感と爽快さがある。村上天皇が舞う「早舞」は天皇や殿上人、成仏した女性の霊が舞うまいで爽快、典雅な舞とする。

藤原師長
14歳で大納言、中納言に次ぐ要職、参議に任命された程の傑物だったという。
太政大臣に登り詰め平清盛と対立、清盛によって尾張国井戸田に流される。
罪なくして流されたのだからと鳴海潟の絶景を眺め琵琶を弾き、歌を詠み悠々の日々を送った。熱田明神で琵琶を弾きその妙音に明神も感応、宝殿しきりに振動したと平家物語、巻第三「大臣流罪」にあるという。

村上天皇 
平安中期の天皇。藤原氏の摂関を止め、親政を行い政治改革を行なった。天暦の治といわれた。和歌をよくし「後撰集」を編纂させたという。
琵琶に長じ大唐の琵琶の博士、廉承武の亡霊に秘曲を授かったことが平家物語巻第七「青山の沙汰」にあるという。

08.15
Wed
保元の乱に敗れ讃岐の松山に流され没した崇徳上皇の墓所を訪れた西行が追善の歌を詠む。上皇の霊が現れ在りし日、都での遊舞を追憶して舞うがやがて配流の憤怒が沸き起こります。白峰の天狗が現れ、上皇の恨みを晴らす様の勢いを見せます。

四国放浪の時の歌人、西行法師が松山の崇徳上皇の御廟所を訪ねます。
老人が現れ西行を御廟所に案内します。
誰も足を踏み入れたこともない山道、岩を伝い苔に覆われた谷の道を辿り風音も寂しい御廟所に辿り着きます。
荒涼とした御廟所の佇まいに、昔は玉楼金殿の宮殿、百官卿相にかしずかれた御身を思い涙を流した西行は一首の歌を詠みます。
「よしや君、昔の玉の床とても、かからん後は何にかはせん」
西行の歌に感じた老人の姿に雅を感じた西行は上皇の存命中の様子を問います。
上皇の存命中に誰が上皇を訪ね慰めたのかと問う西行に、上皇は都での事件を思い出し憤怒しばしばで近づく人もなかったが、魔道の天狗、相模坊とその配下が常々訪ね、私も木陰を掃き清め時にはお心を慰め申したと老人は語り、淋しい木陰に寄るとみて姿を消します。

木の葉天狗が現れ保元の乱のあらましを語り、上皇の霊は西行の歌に感じ終夜舞楽を奏する、相模坊もその配下も参集せよとの宣旨であると触れます。

やがて御廟はしきりに鳴動して院の霊が姿を現わします。
昔、都の夜遊の舞を回想して舞う舞に時刻は移りやがて都での無念が蘇えり憤怒の形相となります。
院の憤怒に呼応するかのように相模坊とその配下の天狗が現れ、院の仇をことごとく討ち滅ぼし無念を濯がんとその方策を勇壮に見せ、夜明けとともに白峰の彼方に消え失せます。

作り物を舞台に設えるのも演能のうちであり、運び出し設え雰囲気を広げていく。
後見が舞台に据えた山と言われる作り物は院の廟。豪壮な廟もうらぶれた廟も形は同じであり観客の心に任せます。
前シテの老人は院の亡霊か天狗の仮の姿か明らかに語られません。
老人の姿を「鄙人なれどかくばかり、心知らるる老い波の、立まふ姿まで、さも雅たるけしきかな」とあり雅ならば院を匂わせるが又「白峰の相模坊に従う天狗共、来るより外は余の参内はなく候。かように申す老人も常々来たり木陰を清め御心を慰め申しし也」とあり、天狗ともとれる。
着衣も身分を示します。紺の無地、無地熨斗目を着ることもあり又、格子模様の小格子を着る場合もあります。無地熨斗目は身分の低い者であり天狗を表し小格子は高い身分、院でしょう。
前シテは天狗か院か演出に任せるということでしょうか。

後シテ、院の霊が「早舞」を舞います。早舞は公家の霊や成仏した女の霊が舞う軽快な優雅な舞です。面は「怪士」で舞います。怪士は怨霊の面です、憤怒の形相で早舞を舞います。院の身分を考慮してか公家の面「中将」を着て舞うこともあります。
憤怒の舞はガラリと変わり、優雅な都の遊舞の場面を現出します。
能では面を付けることを着るといいます。

西行は北面の武士でしたが二十三才で出家、高野山を拠点に仏道修行に励み四国や奥州など漂白して自然と交わり、深い仏教思想と自然との交わりを基礎に、伝統や形式に捉われない歌を詠んだといいます。
未だ弱冠の藤原定家の素質を見抜き選歌を頼んだり、遥かの地、奥州平泉の藤原氏に東大寺勧進の金調達の旅を気安く引き受けたという。
気の置けたい気さくな人柄だったのでしょうか。
後の文人の憧れの人だったのか芭蕉の「奥の細道」の旅は西行の奥州の旅を辿る旅だったといいます。




08.15
Wed

老木の桜の精が閑雅な舞をみせる能。
嵯峨野の奥に隠棲する西行法師の庵の庭に咲く老木の桜は聞こえた名木です。
西行は下働きの男に今年は西行庵の花見を禁止すると触れさせます。
西行は一人心静かに仏との結縁を待ち望むかのように咲いている桜を眺めています。
都中の名花を訪ね歩く下京辺の人達が、待ちに待った桜狩りの季節だと賑やかに西行庵の桜を見物にやって来ます。
花見禁止令をだした西行だったが、遥々下京辺りから花見に来た労を思い断ることが出来ず、招じ入れます。
西行の優しさからでしたが不満は抑えられず一首の歌を詠みます。
「花見にと群れつつ人の来るのみぞ、あたら桜の科にはありける」
やがて日も暮れ月の頃となります。
西行の歌を口ずさみながら桜の虚ろから白髪の老人が現れます。
老人は「桜の科」とは何かその意味をきくために現れたと云い、世を厭う身には花見の客は迷惑だという西行に、非情無心の草木には人間界の憂世は無関係だ、その申し開きに現れたといいます。老人は老桜の精でした。
老桜の精は都の桜の名所を数々あげその美しさ、趣の深きを称賛します。
やがて暁を告げる鼓が聞こえ暁の勤行の鐘も聞こえ、老桜の精は西行との夜遊を惜しみ閑雅な舞を舞います。
静かな情趣に満ちた夜は明け、老人は跡形もなく消え失せます。

この能を評して閑雅、幽玄,閑寂、蕭条などの言葉が使われます。同じような意味らしいがそれぞれに味わいが加わるのでしょう。
後見が桜の枝を挿した山の作り物を持ち出します。西行の庵の老桜です。シテ老桜の精はこの老桜の中から現れます。白髪に狩絹、彫の深い老人の面は閑雅、閑寂、幽玄等々を具現、形象化したように見えます。
巷の普通人である花見の客、世捨て人の西行、人格を持たない老桜の精にそれぞれの立場を語らせ閑雅な世界を描き出します。
シテの出現までワキ西行、アイの能力、ワキツレの花見客の場面に大半の時間をかけています。西行の人となりが見えてくるようです。
クリ、サシ、クセで老桜の精は都の桜の名所を歌い上げます。人間臭を排した西行の目指す境地のように思われます。
老体の姿で舞う「序ノ舞」が目を引きます。序ノ舞は優艶な女の舞です。
老体の舞は、舞の型は同じでも自ずと趣が変わります。
老人の煩悩を去った清らか美しさ、解脱の姿を見るようです。

西行は鳥羽上皇の北面の武士でした。23才で出家、高野山を拠点に仏道修行に励み四国や奥州などを漂白して自然と交わり、深い仏教思想と自然との交わりを基礎に、伝統や形式に捉われない歌を詠んだといいます。
まだ二十代だった弱冠の藤原定家の素質を見込み撰歌を頼み、又頼まれて東大寺勧進のため再度、奥州の藤原氏を訪ねました。当時、奥州は未開の地で旅は困難を極めたといいます。ものに捉われない気さくな人柄が見えます。
芭蕉の「奥の細道」は西行の奥州の旅の後を訪ねる旅でもあったと云います。
後の文人達の憧れの人だったのでしょうか。

12.23
Sat
内外の宮とは伊勢神宮、内宮と下宮。
内宮に天照大御神、下宮に豊受大神を祀る。
伊勢神宮に参宮の勅使の命に、巫女が「神楽」を、神官が「獅子ノ舞」を奉納する。
「獅子」の舞が眼目の能。

のどかな早春、勅使が伊勢神宮参拝に赴く。
勅使は琵琶湖の東南岸、矢走の浦を過ぎ難路、鈴鹿路を超え伊勢路に入り無事伊勢大神宮に到着する。
神官と神子が現れ、神宮の神の威徳を賛美し、民は神の御心に叶うよう正直を基として仕えなければならないと説く。
勅使は神官に祝詞を奏上するよう命ずる。神官は幣を打ち振り祝詞を奏上する。
神官は座を改め君臣、親子、夫婦、兄弟、友人の間の道、五常、仁義礼智信を説く。
勅使は「げに有難き物語、心に染みて有難き」と褒め、神子に神楽を、神官に獅子をと勧める。神子は幣を振り立て神楽を舞い、続いて神官が豪壮華麗に「獅子」を舞う。
舞い終えた神官が獅子の装束を改める間に神子が軽やかに「破ノ舞」を舞い、更に奉納の舞は続き、やがて東の空に五色の雲が棚引き日輪が輝き出る。

この能は「獅子」を眼目にした能。くわえて神子に「神楽」を舞わせ更に「破ノ舞」を舞わせるなど見せ場の多い芸尽くしの能といっていいかも知れない。神楽は通常五段の舞だが三段で舞い納める。
シテ神官は面を着けない直面。神子は小面の清らかな姿で舞う。
「獅子」は「石橋(しゃっきょう)」「望月」「内外詣」の三曲で舞われ、三獅子と呼ばれる。
「石橋」の“獅子”は文殊菩薩の浄土、清涼山に住む霊獣。ライオンの和名も獅子だが、能の獅子はライオンではない。
石橋は獅子の親子が牡丹に戯れる様を、激しさの中にも華麗に舞う。
「望月」、「内外詣」は石橋の獅子を模して舞い、霊獣と人の舞の違いをみせる。
面も石橋は獅子の面、望月、内外詣は金扇二枚を合わせ獅子の口に見せ、獅子頭を着け、緋の布で覆面して獅子の姿にする。
作者は金剛流十代、金剛又兵衛長頼。金剛流中興の祖と言われ名人の誉れの高かった人と云われる。とかく話題の多い人であったようで他流儀との序列争いなど気性の激しい人であったようだ。鼻が高く石榴鼻で鼻金剛と呼ばれたという。
奈良の場末の寺が火事で全焼、焼け跡から不動尊の頭部が見つかった。長頼は住職に懇願して譲り受け不動の面を作った。「調伏曽我」でこの面を着て舞った。石榴鼻が面に食い込み無理に剥がしたら肉が付着、夥しい血が流れた。以来「肉付不動」と呼ばれ今も名物面して残る。 
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